1.

「クリフトのことが好き」

アリーナ姫にそんな風にささやかれるのがどんなに素敵だろうか。

神官クリフトは、ひとり神への祈りを捧げながら、アリーナ姫のことを思い出してしまった。

いけない。いけない。

―神への祈りのときなのに、姫様のことを思い出してしまうなんて。

同期の神官に相談すると、「欲求不満なんじゃないのか」と笑われてしまった。

―確かにそうかもしれない。

姫様には毎日会えているのに、ほぼ毎晩。しかも祈りの時まで思い出してしまうなんて。

私は、どうにかしてしまっているのかもしれない。

クリフトは考えた。

―この思いを伝えたら、もしかしたらこの悪魔の誘惑から勝てるだろうか。

それができたら、一番いいだろう。

・・・だけども。

クリフトが天を仰ぐと、見知った顔が目の前に現れた。

「なーにしているの、クリフト」

ひ、姫様ーーー!

クリフトは、わっと声を出すと、背をのけぞった。

「ひ、姫様、いつからここに・・・?」

「ちょっと前から。」

な、なんですとーーー!

「下を向いていたから、お祈りしているのかと思ったんだけど」

アリーナ姫は、いたずらな目を輝かせて、「そんなことなかったみたいね」とぽそりというと、舌でぺろりと唇をなめた。

その様子に、クリフトはピンク色の唇を見て、思わずつばを飲み込んだ。

「け、けしてやましいことなどは・・・」

ふふ、とアリーナ姫は笑うと「もう、まじめなんだからっ」と背中をバシッとたたいた。

平手打ちを食らったクリフトは思わずにやりとした。

しかしここは、痛がらないといけない・・・・。クリフトは、ちょっとよろめくふりをした。

「わ、クリフト。大丈夫?」慌ててアリーナ姫はクリフトにかけよる。

クリフトは近づいた姫様にニコリとほほ笑んで、「大丈夫です」と答えた。

―我ながらこさかしいことをしてしまった。

また、神に祈らなくては。

 

こうしてクリフトの日常は繰り返されていくのであった。(了)